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妻が全財産を相続できる? 子どもなしの夫婦が知っておくべき遺産相続の注意点

2018年12月20日
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妻が全財産を相続できる? 子どもなしの夫婦が知っておくべき遺産相続の注意点

子どもがいない夫婦の遺産相続はどのような流れになるかご存じでしょうか。夫が先に亡くなった場合、何も対策をしなくても遺産は全て妻に相続されると思っていると、後々、妻が思わぬ相続争いに巻き込まれる可能性もあります。
本コラムでは、子どもがいない夫婦の遺産相続において注意しておくべき点を、弁護士が解説していきます。

1、夫が亡くなったら財産は全て妻が相続できる?

子どもがいる夫婦の場合、夫が亡くなると、その遺産は妻と子どもに相続されます。子どもがいる場合の遺産相続は、比較的シンプルです。
これに対し、子どものいない夫婦の場合、夫が先に亡くなると、その遺産がすべて妻のものになるとは限りません。子どもなし夫婦の遺産相続では、亡くなった方の親や兄弟、さらには甥や姪といった、ほとんど面識のない人が相続人として現れることもあるのです。
何の対策もとらないでいると、残された妻の取り分が少なくなるだけでなく、妻が思わぬ遺産相続争いに巻き込まれるリスクもあります。

2、子どもなし夫婦の財産を相続する法定相続人とは?

  1. (1)法定相続人の範囲

    法定相続人の範囲は、民法で、配偶者と一定の血族と決まっています。ここでいう一定の血族とは、子ども、親(直系尊属)、兄弟姉妹を指します。 なお、本人よりも子どもが先に亡くなっている場合、子どもの子ども(本人から見ると孫)が相続人となります。これを代襲相続といいます。同様に、子どもも直系尊属もいない場合で、さらに兄弟姉妹が本人より先に死亡していれば、兄弟姉妹の子ども(本人から見ると甥姪)が相続人となります。代襲相続とは異なりますが、直系尊属が相続人となる場合で、父母が死亡しており、祖父母が存命であれば、祖父母が相続人となります。
    ところで、ここでいう配偶者とは、法律上の婚姻関係にある配偶者に限られます。内縁関係や事実婚の妻は、配偶者としての相続権がありませんのでご注意ください。

  2. (2)法定相続人の順位

    次に問題になるのは、遺産相続の順番です。これも民法により、以下のとおりに決まっています。 亡くなった方の配偶者は、常に相続人となります。したがって、配偶者については、順位をつけずに考え、配偶者以外の親族は、次の順序で配偶者と一緒に相続人になります。逆に言えば、以下の親族が一人でも存在していれば、妻はその人と一緒に相続することになるわけです。

    第1順位
    亡くなった方の子どもです。
    子どもがすでに亡くなっているときは、その子どもの直系卑属(ちょっけいひぞく)が相続人となります。直系卑属とは、子どもや孫などです。

    第2順位
    亡くなった方の父母(直系尊属)です。
    父母が先に死亡している場合は、祖父母など上にさかのぼります。
    第2順位の人は、第1順位の人がいないときに限り相続人になります。

    第3順位
    亡くなった方の兄弟姉妹です。
    兄弟姉妹がすでに死亡しているときは、その人の子どもが相続人となります。
    第3順位の人は、第1順位の人も第2順位の人もいないときに限り相続人になります。

    なお、相続を放棄した人は初めから相続人でなかったものとされます。

  3. (3)法定相続割合

    相続人ごとの相続割合は次の通りです。

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    配偶者のみ 配偶者に全て
    配偶者と子ども 配偶者に2分の1、子どもに2分の1
    配偶者と親 配偶者に3分の2、親(親が死亡、祖父母が生存なら祖父母)に3分の1
    配偶者と兄弟姉妹 配偶者に4分の3、兄弟姉妹に4分の1
    子どものみ 子どもに全て(人数に応じて等分)
    親のみ 親に全て(同上)
    兄弟姉妹のみ 兄弟姉妹に全て(同上)
  4. (4)法定相続分をケース別に確認しよう!

    子どもなし夫婦で夫が先に亡くなった場合の、ケース別の法定の遺産相続分は以下のとおりです。

    ①夫の親が健在の場合
    妻に3分の2、夫の親に3分の1(両親ともに健在なら6分の1ずつ)

    ②夫の親が死亡、夫の兄弟姉妹が健在の場合
    妻に4分の3、夫の兄弟姉妹に4分の1(兄弟姉妹が複数人いれば、頭数で等分。兄ひとり妹ひとりならば、兄と妹が8分の1ずつ)

    ③夫の親が死亡、夫の兄弟姉妹も死亡、甥・姪がいる場合
    妻に4分の3、甥姪に4分の1(甥姪が複数人いれば等分に分ける。甥ひとり姪ふたりなら、それぞれ12分の1ずつ)

    ④夫の親も兄弟姉も死亡、甥・姪もがいない場合
    妻に全て。

    ⑤妻との間に子どもはいないが、以前の妻との間に子どもがいる場合や愛人との間に認知した子どもがいる場合
    妻に2分の1、子どもに2分の1(子どもが複数人いれば頭数で等分。子どもがふたりならば4分の1ずつ)

  5. (5)子どもなしで夫に姉と甥がいる場合の法定相続分は?

    たとえば、子どもなし夫婦が、夫名義の自宅不動産に夫婦で住んでいるとします。夫には姉と弟がいて姉は健在、弟は先に死亡して15歳の子ども(甥)がいる、というケースの遺産相続を考えます。
    妻は長年専業主婦なので妻名義の資産はありません。姉夫婦は裕福に暮らしており、夫の財産を相続する経済的必要性は特にありません。甥とはほとんど会ったこともなく、弟の死後、その妻と甥ともう他人同然の関係です。
    こうした事情で、全財産を妻に残したいという場合でも、法定相続によれば、妻が4分の3、姉が8分の1、甥も8分の1ずつで遺産を分けることになるわけです。夫の遺産に十分な現金や預金がなければ、妻は自分の住んでいる家を売って遺産分割をしないといけない可能性もあります。

3、妻に全財産を残したい場合にできることや注意点

  1. (1)遺言書の作成

    上記のとおり、子どもなし夫婦の場合、遺産相続の法定割合に従えば、夫の親(直系尊属)や兄弟姉妹またはその子ども(甥姪)がひとりでも顕在である限り、夫の遺産をすべて妻に残すことはできません。しかし、場合によっては、どうしても妻にもっと多く残したい場合もあります。たとえば、妻はずっと専業主婦で、妻名義の資産が少なく、夫の死後の生活に不安がある場合や、妻以外の相続人とは疎遠で財産を残すことに抵抗があるような場合です。
    民法は、こうした希望を実現しうる方法を用意しています。それが「遺言」です。
    遺言は、本人の意思そのものですから、法定相続の規定よりも遺言のほうが優先するのです。
    具体的には、遺言書に、「すべての遺産を妻に相続させる」と記載しておけば、原則として、その遺言の効力により全財産は妻のものになります(後述する遺留分制度には注意が必要です)。

  2. (2)遺言のいろいろ

    遺言には、さまざまな方式がありますが、おすすめはなんといっても公正証書遺言です。
    手軽さでいえば、自分ひとりで作成できる自筆証書遺言が一番ですが、自筆証書遺言には形式の面でさまざまな制約があり、万が一、効力が認められなければ無意味になってしまいます。また、紛失や、時には改ざんされる恐れもありますから、確実性の点で劣っています。
    他方、公正証書遺言は、公証役場で作成しなければならないので、手続きの手間と費用がかかる点がデメリットです。しかし、形式面も内容面でも無効となるリスクは限りなく低く、また、作成後は公証役場で保管してくれるため、紛失や改ざんの恐れがない点が大きなメリットです(全国どこの公証役場でも検索可能という便利さです)。

  3. (3)親がいる場合は遺留分に注意

    ただし、子どもなし夫婦の遺産相続は、「遺言を作れば全て安心」というわけでもありません。遺言の優先度には限界があり、「遺留分」の制度が優先されます。
    遺留分とは相続人に最低限保障された遺産の取り分で、これは遺言者であっても侵すことはできません。
    遺留分は直系尊属である親(親が亡くなっていた場合は祖父母)のみが相続人の場合は法定相続分の3分の1、それ以外の場合は法定相続分の2分の1と決まっています。つまり、子どもなし夫婦で夫は一人っ子、夫の母親は顕在という場合、本来の法定相続割合は、妻が3分の2、母が3分の1です。この状態で、夫が妻に全財産を残すという遺言を残すと、母には6分の1の遺留分請求権が生じることになるわけです。

  4. (4)遺留分は兄弟姉妹には認められていません

    なお、相続人のうち、兄弟姉妹だけは遺留分が認められていません。親子関係に比べれば、兄弟姉妹の関係は薄いことを理由としています。したがって、相続人が妻と兄弟姉妹(甥姪が代襲相続人である場合はその甥姪)だけの場合は、遺言によって、全ての遺産を妻に相続させることができるのです。
    上記の、夫の姉と甥がひとりずつ健在の夫婦の場合であれば、妻に全て遺産相続させるという遺言を作っておけば、姉と甥の権利は完全に失われ、全遺産が妻のものになります。

  5. (5)遺留分は、請求されなければ消滅します

    たとえ遺留分がある場合でも、遺留分の権利は、一般の遺産相続権とは大きく異なる点があります。それは、遺言の存在と遺留分が侵害されているという事実を知ってから1年以内に遺留分の請求(遺留分減殺請求といいます)をしなければ、請求権が消滅してしまうという点です。
    通常の遺産相続の場合、遺産分割に時効はなく、相続人である限りいつでも相続権を主張することができます。そもそも、請求さえしなくても、相続人である以上、その人を除いては遺産分割協議自体ができません。これに対し、遺留分請求は自分が請求しなければそもそも権利として認められず、さらには、わずか1年で権利が消滅してしまいます。
    したがって、遺留分権者が1年間なにも請求しなければ、遺産は完全に妻ひとりのものになるわけです。

4、まとめ

子どもなし夫婦の遺産相続の場合、残される配偶者に全財産を残したいと考える夫婦も多いでしょう。しかし、本コラムで解説してきたとおり、亡くなった配偶者に親(直系尊属)や兄弟姉妹(甥姪)がいる場合は、法定相続分によると、配偶者に全ての財産を残すことができません。何の手だてもせずに夫婦の一方が亡くなると、残された側は配偶者の遺産の預金もひとりで出金できなくなり、大変な状態になってしまいます。こうした事態を防ぐためも、遺言の作成は不可欠です。また、遺産の内容に合わせて適切な遺言を作っておくことも大事なことです。
残される配偶者のために最適な相続対策をお考えの方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所までお気軽にお問い合わせください。

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